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日中友好新聞

2013年1月15日号1面
「民」の力で政府を動かそう
日中関係の展望
谷野作太郎さん(元駐中国大使)に聞く

 国交回復以来の40年間で最悪の状態に陥った日中関係―。
 新年に当たり、その打開の展望や民間友好運動の役割などについて、元駐中国大使・谷野作太郎さんに聞きました。(編集部)

 

写真1

谷野作太郎氏

双方が知恵と勇気もって

 

 2012年は、日中国交正常化40周年の年でしたが、どのような感想をおもちですか
 
 日中国交正常化40周年、孔子流に言えば、「四十而不惑」(論語・為政篇)ですね。しかし、両国の関係は残念ながら厚く氷が張りつめた、「不惑」とはほど遠い状況です。
 昨年秋、中国各地で起きた中国人による常軌を逸した乱暴な行動、他方、日本では直近の世論調査によれば、日本人で中国に対する親近感をもつ人の割合はわずか18%と、40年前の国交正常化以来、残念ながら最低点に達したということです。
 このような状況をみるにつけ、私は中国の人たちがよく口に出す「和則両利、闘則倶傷(和すれば、双方に有利、闘えばともに傷つく)」という格言が思い出されてなりません。
 そういう中で、中国では党中央のリーダーたちの交替があり、日本でも新しい内閣が発足しました。
 両国の政治のリーダー方が、この新しい局面を積極的にとらえ、大いなる知恵と勇気をもって、一挙に問題の解決とはいかないまでも、ぜひとも事態の鎮静化、両国関係の正常化に向けて努力して欲しいと思っています。

 

海上危機管理体制が急務

 

 12年の「尖閣諸島」をめぐる事態と、この問題についての解決の道筋についてお考えをお聞かせ下さい
 
 この問題についての「解決の道筋」、私も現在の状況を心配する立場から、個人としていろいろと想をめぐらさないわけではありません。ただ、いずれ問題の解決がはかられるにしても、それまでには、かなりの月日が必要なのではないかと思います。
 とすれば、それまでの間、日中両国の政府に直ぐにでもやってほしいことは、「尖閣」を含む東シナ海の海上における危機管理の仕組み(日中の間で海上での偶発的衝突を防ぐためのいろいろな仕組み、あるいは不幸にしてそのようなことが起こってしまった場合、事態の拡大を防ぐためのホットラインの設置など緊急連絡体制)を早急に立ち上げることです。
 ちなみに、この件についての日中の間の議論は相当煮つまってきていた。それが昨今の状況の下、両国の間の話し合いが中断されたままになっていると聞いています。

 

政治に左右されない交流を

 

 日本中国友好協会など民間の運動が果たす役割は大きいと考えていますが、民間の友好交流活動への期待や、要望をお聞かせ下さい
 
 日本と中国の間においては、正常化以前も、そして正常化の後も政府間の関係が困難な状況に立ち至った時、よく言われたことは、「以民促官」ということです。言うなれば、「民」の力をもって頭の硬い政府を動かし、両国の関係を前に進めるということです。従って、皆さんの協会のお役割に期待するところ大です。
 他方、そこでひとつ問題なのは、中国は、今度のように日本との関係において政治、外交の面で、緊張した状況に立ち至ると、その他の分野での交流関係―例えば今後の両国関係を考えると、これこそ大切と思う青少年交流、地方同志の交流あるいは文化・芸術交流など―もそのほとんどを一方的に止めてしまうというやり方です。
 そして今回は、事は経済関係にも及び、日本から中国への輸出についても、通関手続など途端に敷居が高くなったようですし、そんななか、日本から中国への輸出も今年は大幅に減るということのようです。
 「政治」がすべてを差配する中国らしいやり方ですが、先に述べた「和則両利、闘則倶傷」ということを思いながら非常に残念に思っています。
 ちなみに「尖閣」の件は、台湾との間でも大きな争いごととなっており、また、韓国との間では、ご存知のように「竹島」、その他の問題でこれまた政治・外交の面で緊張した関係にありますが、日台関係、日韓関係では、そのようなこと(「政治」がその他の分野での関係を大きく毀損する)ということは起こっていません。

 

協力しアジアと世界に貢献を

 

 日中関係の将来についてどのようにお考えですか
 
 日本にとって、中国との関係は、アメリカとの関係とともに大変大切な関係です。
 昨今の状況は私も大変心配していますが、このようなことは、隣国同士ではままあること、その際、お互いに売り言葉に買い言葉、目には目を、歯には歯をといった言動に走らず、ここはひと呼吸おいて粗野な言葉を慎しみつつ、議論すべきは堂々と議論するという風格をお互いに身につけたいものだと思います。
 昨今、日本の一部のメディア、雑誌、出版物が「日中開戦前夜」とあおり立て、日中戦争のシミュレーションなるものを書きたて、はたまた「日本核武装論」を唱える、そして諸事にわたり元気がない日本人が、そんなところで元気をもらう、そんな風潮を心配しています。
 他方、昨年秋、中国各地で日本の大使館、総領事館、日系の企業、日本食レストランなどを対象とした中国人による乱暴狼藉がくりひろげられていた最中、日本の女子ゴルフトーナメントで中国人の女子プレーヤーが優勝、これに対し、観客の日本人たちが彼女に対し惜しみない拍手を送りました。私はその観客の人たちの立派なマナーに大きな拍手を送った次第です。
 「島」の問題だけが日中、中日関係ではありません。日本と中国はアジア、世界で紛うことなき大国です。とすれば、お互いに協力すれば、アジア、そして世界の平和と繁栄のために多くのことができるはずです。環境問題、軍縮問題、北朝鮮問題、食料、エネルギー問題、アフリカの貧困問題に対する日中共同の取り組みなどです。しかし、現実は、全くそのようになっていません。
 周恩来総理は、中日関係をうまく運営するガイドラインとして「小異を残しつつ、大同に就く」(求大同存小異)ということをおっしゃっていました。ちなみに、最近日本の一部政治家は、「小異を捨てて、大同に就く」ということをおっしゃっていますが、少なくともこの言い方は中国には、ありません。「小異」をきれいに捨て去る、忘れてしまう、その方が楽かもしれませんが、そのようにして得られた「大同」、合意は極めて危ういものだと思います。
 「小異」は捨ててしまうのではなく、そのことは常に頭のどこかに置きながら(日本と中国で言えば、国情の違い、モノの考え方の違い、歴史文化の違いなどなど)、それを乗り越え、「大同」つまりは日中の友好と協力の世界に就こうということでしょう。
 日本も中国もお互いに協力して、いずれそのような境地にたどりつきたいものだと願っています。

 

 谷野さんプロフィール
 1936年東京生まれ。60年東京大学法学部卒業。同年、外務省入省。中国課長、アジア局長等、主にアジア畑を中心に従事。ソ連(一等書記官)、中華人民共和国(同)、米国(公使)、韓国(同)等の在外日本大使館勤務を経験。また、内閣(故鈴木善幸総理秘書官、外政審議室長)、総理府等の役職を歴任。
 95年から在インド日本国大使、98年から在中華人民共和国日本国大使。01年外務省退官。02年から12年(公財)日中友好協会副会長、現在同顧問。

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