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日中友好新聞

2008年2月15日号1面
新世紀中国映画の新しい波か?
ベルリン国際映画祭で19年ぶりグランプリ
2月下旬公開 「トゥヤーの結婚」と国際女優・余男(ユーナン)

 

写真
「トゥヤーの結婚」
2月23日より東京Bunkamuraル・シネマにてロードショー、全国順次公開
公式ホームページ=www.tuya-marriage.jp

 日本の3倍以上も広い内モンゴル自治区。その首府フフホトから西南500キロ、寧夏回族自治区に近い賀蘭山のふもとに、この映画のヒロイン、トゥヤーが住んでいる。井戸掘りの事故で障害者となった夫と2人の子どもをかかえ、羊の放牧、10キロ先から駱駝での水汲み、家事となんでもする働き者だ。だが身体の負担は大きくて倒れたために――。

貧困に立ち向かう愛情

 いつも赤や青のスカーフをかぶり、馬で疾走し、駱駝にまたがって走るトゥヤーはたくましくて美しい。トゥヤー=光という名にふさわしくまわりを明るくする。トゥヤーを演じたのは余男、1995年に北京電影学院入学、2000年に映画デビュー、いま国際女優として活躍中だ。その余男が先日、来日した。会った。びっくりした。あまりにもスマートで色白なのだ。
 1978年大連生まれの余男は「モンゴル人を演じるのではなく、モンゴル人になれ」と撮影前に李全安監督にいわれた。現地に3カ月住み、5時に起きてそこの人びとと同じ労働をして、いっぱい食べてふとってトゥヤーになった。
 トゥヤーは貧困をのりこえるために夫と離婚をして、生活をささえる男と再婚しようとする。条件は障害のある元夫も同居すること。「簡単な考えですが、夫を愛して他の男というのは複雑で表現するのに難しかった」と余男は笑った。
 これは婿選びの映画なのだ。実話にもとづくというが、これまでの中国映画では考えられない、自主的で積極的な女性の生き方が脈打っている。
 外面的には男のように強くて、内面的には女としてのナイーブな心根をもっている微妙な女心が、予測できない出会いや出来事をとおして、思いがけない男にひかれていくあたりを、さっぱりと壮快に演じていく余男という女優の見事さ。
 牧草地が砂漠化していくために行政措置が行われ、牧畜民が故郷から去らなければならない現実に、母がモンゴル族である李監督は、彼らの暮らし方を女の視点から記録しようとした映画でもある。
 「ここに生きたいから選んだ方法。普通だと都会へ行くのに…」と余男はトゥヤーの心を思いやり、「悲劇的だけど愛を信じている」「ユーモアがあって自由なのです」「トゥヤーってとっても好きですね。愛情豊かな人だから」と、演じた喜びをいい表した。

未来に向け「人間」を描く

 張芸謀監督がデビュー作「紅いコーリャン」でベルリン国際映画祭金熊賞(グランプリ)を受賞して世界を激動させた。それから19年たって、2000年にデビューした李全安監督はこの3作目で、昨年ふたたびベルリンの金熊賞を中国にもたらした。第五世代監督が商業映画的大作を撮って大ヒットさせていく時代になったが、李全安監督のような次の世代は個人の立場を、きれいな風景よりも人物を描くことで中国の真実に迫ろうとしている。困難な現実での健康な身体、美しい心のあり方を求めている。
 07年の中国映画には「トゥヤーの結婚」だけでなく、村の有力者の悪を徹底的に追求する勇気を描く「天狗」、宝石争奪に人間性を問いつめる「クレイジー・ストーン」、精神障害者の養母の愛情を掘り下げる「さくらんぼ」、大水害後の人間関係回復を見る「彼らの船」といった感動作が目立った。
 トゥヤーがはじめて涙を流すシーンが痛切に迫る。その輝く重みにどきっとさせる。涙にこれからどうなるのかわからない運命のさだめを見つめさせて、思わずトゥヤーたちの幸せを願ってしまうような感情移入させる李監督のたくみさ。「この映画に感動していただきたいです。これまでの中国映画とちがったものを感じてほしいです」とは余男の日本観客へのメッセージだ。これは新世紀中国映画の新しい波になるか?(石)

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